フランスの作家 Baptiste Martin によるプロジェクト、Les Halles が、ベルギーのレーベル 【STROOM.tv】より2025年に発表した最新作『ORIGINAL SPIRIT』。本作は、作家自身の個人的な体験を通して生まれた作品でありながら、聴く者に生命の源を想起させるような、静けさの中に息づく力強さと、深い美しさに満ちている。風のようにそっと吹き抜け、海の中を自由に泳ぐかのように、静寂と壮大な広がりのあいだをたゆたうサウンドスケープ。どこか遠くの記憶を呼び覚ますような、内なる静けさと共鳴するアンビエント作品です。[GRRRDEN]

---
「2024年10月1日、精神的ショックにより、マヨルカ島のソン・リャッツェル病院に入院しました。」

まるで告白小説の冒頭のようにも聞こえるこの一文は、実際には一通のメールの書き出しだった。Les Halles こと作曲家バティスト・マルタンから、ある日突然届いたものである。

彼がPDF形式で綴ったその手紙には、ここ数ヶ月の出来事と内面の旅路が簡潔ながらも印象深く記されていた。彼は迷い、見つかり、再び迷い、そしてまた見つかる――そんな経験を繰り返しながら、常に自らの意識の奥深くに閉じ込められていたという。手紙では、自我やコントロール感覚の喪失が描かれており、それはまるで小さな水槽の中で、カメの赤ちゃんがガラスをひっかいて脱出しようとするも、かなわないもどかしさのようだった。

バティストは作家ではない。彼は音楽家だ。そしてこの言葉の後に続くのは小説ではなく、アルバムである。これが、そのアルバム『Original Spirit』だ。

この作品は、精神的ショックの直接的な物語を語るものではない。むしろ、人生の混沌や苦しみを静かに見つめながら、なおも揺るがずに在る何か――決して穢されることのない「本来の魂＝オリジナル・スピリット」へのかすかな希望を奏でている。
その希望は、静けさと共に、このアルバム全体にそっと息づいている。