Kankyo Records

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Mita Koyama-cho [White Vinyl]

Mita Koyama-cho [White Vinyl]

3,500円

QTY

 グーグルで港区・三田小山町の名を検索すると、かつては長屋が立ち並ぶ貧しいエリアだった──といった記述にいくつも行き当たる。令和以降も、麻布十番・東京タワー・白金高輪に囲まれた超・一等地でありながら古い木造家屋が並び、不思議な静けさも相まって時が数十年止まったままのような “都心のエアポケット” 的存在、三田小山町。現在は大規模な再開発が進行し、戦前より村上の先祖が住み続けた築80年超の家も取り壊しが決まった。当時居住していた彼は都外へと転居し、遠く離れた地で本作のリリースを迎えている。
 本作は、この数奇な町 (都心部だが、あえて街でなく町と表記する) と、10代から世界を旅し、ブラジル・サンパウロの名門音大で学んだのち帰国した、村上の人生にまつわるコンセプトアルバムである。

 各収録曲は、国内外での鍛錬・蓄積に裏打ちされた緻密で複雑なコード進行を持ちながらも、引き算の末に選び抜かれた無駄のない音が並び、難解さは一切感じさせない。古典的な構築美と “ジャパニーズ・アンビエント” 的なミニマルなフォルム、現代アンビエント界で求められる質感・テクスチャーの美学がごく自然に同居するさまは、世界的にも先端をゆくものだろう。

 加えて、自身の育った町にまつわるパーソナルな記憶を失われゆく大都市の歴史に接続し、戦前・戦後から現代までを一本で繋ぐコンセプトの完成度も驚異的なものがある。アートワークのレトロで日本的な風景から想起される印象とは異なり、本作で描かれているのはノスタルジーもオリエンタリズムも超えた先にある、現代の都市風景である。この点は偶然にも、本邦ロック史の始祖のひとつ、はっぴいえんどが変わりゆく東京へのノスタルジーを表したコンセプト “風街” にも通ずるものがある。また、マーヴィン・ゲイがデトロイト都市部の貧困区画から着想を得て制作した「インナーシティ・ブルース」とも不思議なシンクロを感じずにはいられない。ある意味、マーヴィン・ゲイ的なインナーシティへの眼差しをもって、彼は令和の “風街” を活写したとも言えよう。
 そして本作には、町の消失に直面した村上の感情が痛いほど鮮やかに描かれている。超・個人的であり超・社会的、そして時を超える音楽がここにはある。コンセプト設計・作曲・演奏・編集・エンジニアリングの全方位に秀でた村上の才能は、この作品を通じて多くの人に知られていくはずだ。

 本作の制作にあたり、村上が影響を受けたという音楽は非常に多岐に渡る。ジョー・ミークやレイモンド・スコットといった音楽エンジニアリング黎明期の作家たちに始まり、グラント・グリーンなどのジャズ、キング・クリムゾンやケストレルをはじめとするプログレッシブ・ロック、ハロルド・バッドやブライアン・イーノのようなアンビエントのオリジネーター世代、さらにはジョセフ・シャバソンやマーク・バロットら近年の音楽家まで──それでいて、最終的な録音物は極めてオリジナリティが強く、根底で日本的な情緒も息づいているのが実に面白い。これは、彼が10代から世界を旅したことで、自身のルーツをごく早い段階から客観的に、適切な距離感を保って見つめてきたことも大きいのだろう。

 個人 / 社会の垣根を越えて普遍的な空気を宿した本作は、2020年代の日本アンビエント史に残るものであり、さらには “日本の名盤” という括りでも語り継がれるべきだろう。気高く自由な彼の人生は『Mita Koyama-cho』以前と以後に画された。これからの村上の人生を、アンビエントを愛する音楽ファンは刮目する責任がある。[TOMC]







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