世界中の音の風景の継続的なアーカイブをリリースしているフランスのレーベル【PRESQUE TOUT】から、フィールドレコーディングのTAPEシリーズの第7弾。本作には、アメリカ・コロラド州西部の乾燥した亜高山帯でPatricia Wolfが録音した作品と、アメリカ・メリーランド州ボルチモアでGregory Mcgreevyが録音した作品が収録されています。

A面では、Patricia Wolfによる、乾燥地帯の高山に息づく動植物の生態系を背景に、さまざまな鳥たちの声がこだまする朝の音風景が展開。

B面では、Gregory Mcgreevyが、17年に一度アメリカ東部に出現する蝉の大群「ブルードX（グレート・イースタン・ブルード）」をテーマに、交尾相手を引き寄せるために鳴くオスの蝉たちの圧倒的な音と、それを狙う捕食者である鳥たちの声を捉えています。

それぞれの土地の生態系と時間の流れを映し出す録音。詳しい解説とともにお楽しみください
________________________________
▶︎Patricia Wolfによる解説
アメリカ・コロラド州ビーバークリーク
2024年6月23日 午前6時21分
この夜明けの鳥の合唱は、標高9,000フィート（約2,740メートル）、コロラド西部の乾燥した亜高山帯に位置するビーバークリーク研究所で録音されました（アメリカ・コロラド州サウス・ビーバークリーク）。周囲の生態系は、南向きの斜面にはセージブラッシュ（ヤマヨモギ）・ステップ、涼しい北向きの斜面にはアスペン（ポプラの一種）と針葉樹のまばらな混交林が広がっており、これらは10億年以上前の岩石に由来する土壌の上に育っています。研究所のすぐ下を流れる、緑豊かでヤナギに縁取られた小川には、実際にビーバーが生息しており、イエローベリー・マーモット（キイロハラ・マーモット）、ミュールジカ（大型のシカの一種）、そしてその他多様な野生動物たちの暮らしの場ともなっています。
この録音には、アメリカン・ロビン（コマツグミ）、スミレミドリツバメ、ミドリオグロムシクイ、ハチドリの一種であるブロードテイルド・ハミングバード、ウエスタン・ウッド・ピウィー、キツツキの一種であるノーザン・フリッカーなど、さまざまな鳥たちの声が含まれています。
この作品は、ロッキーマウンテン生物学研究所のアート／サイエンス・エクスチェンジ・プロジェクトおよび米国科学財団（NSF）助成金 DEB-2337426 の支援を受けて制作されました。

以下の科学者の皆さまに、研究の魅力を分かち合っていただいたことに心より感謝申し上げます：
Dr. Paul CaraDonna、Dr. Amy Iler、Dr. Jane Ogilvie、Dr. Nickolas Waser、Dr. Mary Price、Dr. Will Petry

録音機材
Microphones : Clippy XLR EM272Z1 matched stereo pair of microphones. Telinga Modular Foldable parabolic 22" dish. The microphones were mounted in a forward position away from the dish.

Recorder : Sound Devices MixPre-6 II



▶︎Gregory Mcgreevyによる解説
メリーランド州ボルチモア（アメリカ）
2021年5月26日 / 20:00
[緯度経度：39.3421319, -76.6363117]
17年ごとに、アメリカ東部では数兆匹ものセミが地中から出現します。**Brood X（ブルード・テン）**または「グレート・イースタン・ブルード」と呼ばれ、周期ゼミの中で最大規模・最大分布を誇ります。彼らは地中から地表へと登り、木に登って脱皮し、飛翔、交尾、産卵を経て数週間で死に、また17年後に再来するのです。
オスのセミは求愛のために「歌」い、その集団の合唱は80デシベルを超えることもあります。このブルードには3種の異なるセミが含まれ、それぞれ異なる求愛音を持っています。
この録音は、ボルチモアの自宅裏庭を望む窓辺で録られたもので、Tascam のデジタル4トラックレコーダー（DR-05X）を使用しました。セミの重層的な歌が波のようにうねりながら大きくなったり小さくなったりする様子が聴こえます。録音中にはセミを狙う鳥の声も混じっており、ブルードXが世代を越えた食料源として機能していることがわかります。それでも彼らの圧倒的な数が、種の生存を支えているのです。

録音機材
Recorder : Tascam DR-05X